インタビュー

あなたの「夢の病院」、教えてください

2009年9月18日

teduka07

山積みの課題に負けない、アイデアの強い力を信じて

編集部
模型を見せていただきましたが、現在のプランになるまで、やっぱり紆余曲折はあったのでしょうか?
手塚(由)
まず、最初の建設予定地は、いまとは違う場所でしたね。
その頃から通算すると模型は50個以上つくっています。
プランの本質は変わりませんが、以前の予定地はとても大きかったので、2階建てではなく、平屋で設計していたんです。

teduka06
手塚(貴)
現在の予定地の土地事情に合わせて変更しましたが、2階建てのいいところは、狭くてもプライバシーが保てるところですね。
お母さんが、2階で自分の時間をもつこともできるかもしれません。
編集部
土地や条件は変わっても、根本的なテーマは当初からブレていないのですね。手塚さんご夫妻が建築を手がける際、一番大切にしていることは何ですか?
手塚(貴)
そこにある社会の問題意識や、何が本当に必要なのかを、“つかまえる”ことですね。
建築はアートではないと思うんです。自分のアイデアを表現したおもしろい建築なら無限につくることができるけれど、建築はおもしろいだけじゃダメ。
目の前にある無数の事実から、ひとつの真実をつかまえた上で設計し、それの完成によって、社会や、使う人の人生が変わっていくことが重要だと思います。
今回の場合は、病室の狭さが一番の問題なんだと早いうちから感じました。そういう意味では問題が明確で、やりがいがある仕事ですね。
編集部
医療施設ということで制限も多いですよね。新しい病院をつくろうとすれば、その制限はもっと強く迫ってくるのでは?
手塚(貴)
まさに今、その問題にぶつかっています。
保険の点数や安全基準など、課題は山積み。行政からではなく人の声から、世論からつくる新しい病院のひとつにしたいですが、日本は制約が多すぎるように思います。
手塚(由)
大人は誰かの付き添いなしでも入院できるので、いまの医療体制でもどうにかなるでしょう。でも、ひとりでは心もとない子どもには、お母さんの付き添いがどうしても必要になります。
一方で、現在の医療体制はその現実に対応していない。付き添いが病室に24時間いて“泊まる”という行為は認められていないのです。
今回の設計の大きなポイントは、子どもの病院というのは親もセットで考えるべきということですから、既存の体制とどう関わっていくかが、一番大きな課題かもしれません。
編集部
小児病棟の子どもたちと家族が、落ち着いた環境で治療に専念できるような社会ではない、という現実が、この病院づくりを通して見えてきますね……。問題解決として設計した大きなポイントは他に何がありますか?
手塚(貴)
医局(医師の居室)の場所ですね。
ふつうは、医師は患者さんから見えない場所にいるのですが、この病院では、ナースステーションは中央部分にガラス張りで設計してあって、家族がお医者さんにいつでも声をかけられるようになっています。
このアイデアは、チャイケモに関わっているお医者さん側からの提案でした。
仕事の依頼主側との関係というと、ふつうは建築家が過激なことを提案して『それはちょっと困ります』と言われることのほうが多いのですが、今回はまったく逆。こちらが『本当にやっていいんですか?』というような新鮮な提案がたくさんあって、それを私たちが少しずつ実現化させている、という感じで、設計が進んでいます。

teduka03
編集部
現場の声から生まれたという意味でも、この病院が完成したときの社会的な注目は大きいでしょうね。実際の患者さんやその家族の方々には、完成したものを見て、どういう風に感じてもらいたいですか?
手塚(由)
どう感じてもらいたいか、私たちはその答えを初めから狙ってつくっています。それを事前につかんで初めて設計がはじまるからです。
現場の方々の気持ちから導き出したたったひとつの解答が、この病院でなくてはいけない。
今回の場合は、患者さんやその家族、お医者さんの声を実際に聞いて一緒につくっている感覚なので、特にそう思います。
手塚(貴)
建築家は、建物をつくっているときは自分のもののような気がしていますが、実はそうではないんですよね。
私たちがしてあげられるのは準備を手助けすることまでで、実際に“完成させる”のは使う人たち。先のことを期待するよりも、“そうなるようにしてあげる”のが私たちの仕事です。
そして、今まで小児がんについて知らなかった人が、少しでもこの問題を考えるきっかけとなるような建物になるといいですね。
僕は、日本はサイレントマジョリティの国だというのを、肌で感じてきたんです。新しい建築を世に送りだすと、予想以上の反応が返ってきて、一気に広がったりするんですね。
声を上げないだけで、水面下で問題意識を共有している人は多いのだと思う。メッセージを伝えれば、そこに届くのではないでしょうか。
今回も、病院が完成したときにこそ、小児がんをとりまく環境に大きな変化があると信じています。
編集部
ありがとうございました。『夢の病院プロジェクト』もしっかり情報を発信していきたいと思います。完成の日まで、どうぞよろしくお願いします!

手塚さんのつくった模型のひとつひとつから、子どもたちと家族の声、医療現場の熱意、体制の問題点などさまざまなことが見えてきました。
一方で、今の現実にはない新しいものをつくるのにまず必要なのは、ルールではなくアイデアだということ、そのエネルギーを改めて実感しました。
そんな『夢の病院』の原動力を、次回からもいろいろな方から集めていきたいと思います。
——あなたの『夢の病院』は、どんなかたちをしていますか?

(text=大野麻里 edit=梶谷牧子 photo=金子睦)

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